厚生労働省HPにある「厚生労働省が作成している介護予防マニュアル」に準じて作成されたプログラムです。
具体的には、人が歩行を行えなくなる事で「活動量が低下する」ことを重く見ているため、下肢筋力の維持向上を目的とした内容になっております。
特に機能訓練としては、高齢者の日常生活動作を整えるような運動をします。
CGTの要点
- CGTとは、 虚弱高齢者を対象とした、機能向上を目指した包括的なトレーニングである
- CGTは、身体機能向上、体力の要素を包括的にトレーニング、医療と体育の協働、期間限定の特徴をもっている
- CGTは三期(コンディショニング、筋力増強、機能的トレーニング)に分けて行われる
- 筋力向上のためには、高負荷・低反復、コンディショニングのためには、低負荷・高反復が有効である
- 筋力は、張力、角度、速度、収縮形態の4つの特性がある
- CGTは客観的な評価を行うまでがプログラムである

包括的高齢者運動トレーニング(Comprehensive Geriatric Traning,CGT)
CGTとは、虚弱高齢者を対象に、運動器の機能向上を目標とし、筋力、バランス、機能的トレーニングを週2回3か月間行い、客観的な効果を検証する包括的なトレーニング方法です。
CGTのCが(Comprehensive)つまり、包括的を意味するが、CGTには2つの包括という意味が含まれています。
1つは、体力の諸要素を包括的にトレーニングするという意味。
高齢期では、体力の要素が単独で低下することはまれであり、単独の要素をトレーニングするだけでは、要介護状態を予防することはできません。
もう1つは、医療と体育の専門職が協働するという意味の包括。
トレーニングの効果を維持するためには、地域での継続が必要である。このためには、社会体育との連携は必須であり、初期には医学的なトレーニングであっても、徐々に、体育学的なトレーニングへと拡大していく必要があります。
医療は、日ごろ、心身機能が低下した高齢者を対象としているだけに、高齢者の能力を低く見積もる傾向にあり、高齢者の活動範囲を制限しやすいのです。
逆に、体育の専門職だけでは、痛みや心疾患など、リスクの高い高齢者を受け入れることは難しいです。
したがって、医療と体育の専門職がCGTという思想を共有し、対象者を地域での活動量増加へと導いていくための包括的なかかわりが必要です。

CGTは、若年者のトレーニングと異なる以下の5つの特徴を持っています。
【1】身体機能の向上を目標
CGTは、体力の”維持”を目標とするのではなく、さらに踏み込んで”向上”させることを目標にしています。向上を目標としなければ、虚弱高齢者は虚弱高齢者のままです。
高齢期にいつまでも自分らしく生活するには手段的な自立が必須であり、すなわち「歩いて行きたいところに行けるようになる」まで身体機能を向上させることが目標になります。
【2】体力の要素を包括的にトレーニング
CGTは、ウエートトレーニングマシーンを使った筋力増強トレーニングを中心としますが、これに加えて、バランスや柔軟性などの体力を構成する諸要素を包括的にトレーニングします。
特異性の原則と呼ばれますが、1つのトレーニングですべての体力の要素を鍛えることはできません。
つまり、筋力を鍛えれば筋力が、バランスを鍛えればバランス能力が改善しますが波及効果は限られています。
高齢期には、体力の諸要素が全般的に衰えてくるため、筋力増強を中核にするとしても、その他の体力の諸要素に関しても包括的にトレーニングする必要があります。
【3】医療と体育の協働
虚弱高齢者は、慢性疾患を抱えている場合が多く、疾患への配慮が必要となります。このため、理学療法士や看護師など医療専門職が必須となります。一方、地域での運動継続を視野に入れると医療専門職だけでは不十分であり、社会体育を担う体育専門職との共同が必要になります。
しかし、両専門は、対象・手法ともに大きく異なっており、理念を共有することなしに協働することは難しいです。
つまり協働のための共通の概念、共通の言語がCGTです。
CGTを学んだ介護予防訓練士は、自身の基礎的資格を活かしつつ、虚弱高齢者の心身機能向上の中核となります。
【4】期間を限定したトレーニング
CGTは期間を限定した集中したトレーニングです。
CGTは、虚弱高齢者の身体機能を改善し、自立した健康増進活動を維持することを目的にします。
すなわち、CGTを受け続けることでは、自立した健康増進活動とは言えません。
CGTによって、自分の体を理解し、地域の様々な資源を活用し、自らの体を維持することを目指します。
このためには、無期限のトレーニングではなく、あらかじめ期限を示し、これに向けて自立への支援をしていきます。
CGTは庇護の対象を増やすのではなく、高齢者の体の維持に必要なすべてを教え、CGTから巣立っていくものを増やすものです。
経験的に3か月で基本的な手技の取得、効果の実感が得られるので、これを期限として集中的なトレーニングを行います。
まれに脳卒中後遺症などにより、基本的な手技の取得、効果の実感が得られない場合には、2クール、すなわち6ヵ月間を期限として集中的なトレーニングを行います。
【5】客観的評価
CGTでは、評価もトレーニングの一部ととらえ、事前2回、事後2回と別の時間を設けて客観的評価を行います。
高齢者向けのさまざまな運動プログラムがある中で、客観的な評価がなされていることが他の運動プログラムとの違いであり、従って、評価はCGTの根幹をなすといっても過言ではありません。
これは、CGTの有用性を示すとともに、CGTがさらに進歩していくための必須条件となります。
評価は「効果」「効用」「便益」の3つの側面から行います。
効果とは、筋力、バランス能力など、機能的な変化であり、効用とは、歩く速度、疲れやすさ、主観的健康観、など、能力的な変化です。
また、便益とはこれらの効果を金銭に置き換えたものになります。
3つの側面から効果が検証されて始めて、虚弱高齢者に有効であると言えます。
例えば、筋力だけ高くなっても移動能力に効果がないのであれば、何の有効性も感じません。
さらに、筋力が上がって、歩行速度が上がったとしても、その効果に見合う以上にお金がかかるとすると見向きもしてもらえないでしょう。
この3つの側面の評価は、老年学で基本となっている評価項目を用いて行われます。
これによりCGT以外のプログラムとの比較や研究者によって行われる科学的評価に耐えられるものになっています。